「お前は彼女―魔女の魂の片割れ。母さんの本当の子供を奪ってその体を手に入れた、犯罪者なんだ。
少しでも罪の意識を持ち、罰を受ける覚悟があるならば――お前の片割れ、魔女を殺しておくれ。」
祖母が頼み事なんて珍しい、なんて思いながら黙って見つめていた。
こんなに小さな人だっけ?なんて思う余裕さえあった。
いや、逃げ道を探していたのかもしれない。
「僕には…出来ないよ…。」
知ってるでしょ?僕がいつも母さんの声に震えてるだけの弱虫だって。
「出来るさ。お前はもう魔女に出逢ったんだから。戻ればあの子が待っている。どうか、救ってやっておくれ。」
物語の代わりに紡がれる祖母の懇願に、僕はようやく納得がいった。
だから貴女だけは僕を大切に育ててくれたんだね。
時には狂う母の壁となってまで、僕を守ってくれたのは――
「―おばあちゃんは僕を守って、育ててくれた。…たとえそれが僕の為じゃなかったとしても、ね。」
僕の言葉に祖母は、はっとして僕を見る。
もう遅いよ…。
「安心して。僕は母さんの元へ帰らなくていいなら何でもするよ。これが今までの恩返しになるならね。
――さよなら、優しい魔女さん。」
いくら魔女でも、祖母は祖母らしく、ただ笑みを浮かべていた。
今にも泣き出しそうな、悲しい笑顔だったけれど。
かつて村から彼女―漆黒の魔女と呼ばれていた―が消えた時、喜ぶ村人の中で唯一涙したのは魔女の母だった。
たった一人の娘を失った彼女は悪魔に願い乞うた。
『娘を救ってくれ』と。
悪魔はその願いを聞き入れ、彼女にそれを成すための時間と鍵を得る術を与えた。
姿を変え、娘のいる森の側の村で結婚し、娘を産み、その娘に器となる子供を産ませる。
悪魔の出した残酷な条件も娘のために成した。
そう、全ては娘の為。
僕は愛されてなんかいなかった。
結局、大事なのは魔女の魂を宿したこの体であって、“僕”という存在じゃなかった。
それでも確かに“僕”という心は存在し、救われた。
いくら感謝しても足りない。
だから祖母の願いなら叶えてみせよう。
たとえそれが、見返りを求めることも許されない、一歩通行の愛情だとしても――
7に続く
少しでも罪の意識を持ち、罰を受ける覚悟があるならば――お前の片割れ、魔女を殺しておくれ。」
祖母が頼み事なんて珍しい、なんて思いながら黙って見つめていた。
こんなに小さな人だっけ?なんて思う余裕さえあった。
いや、逃げ道を探していたのかもしれない。
「僕には…出来ないよ…。」
知ってるでしょ?僕がいつも母さんの声に震えてるだけの弱虫だって。
「出来るさ。お前はもう魔女に出逢ったんだから。戻ればあの子が待っている。どうか、救ってやっておくれ。」
物語の代わりに紡がれる祖母の懇願に、僕はようやく納得がいった。
だから貴女だけは僕を大切に育ててくれたんだね。
時には狂う母の壁となってまで、僕を守ってくれたのは――
「―おばあちゃんは僕を守って、育ててくれた。…たとえそれが僕の為じゃなかったとしても、ね。」
僕の言葉に祖母は、はっとして僕を見る。
もう遅いよ…。
「安心して。僕は母さんの元へ帰らなくていいなら何でもするよ。これが今までの恩返しになるならね。
――さよなら、優しい魔女さん。」
いくら魔女でも、祖母は祖母らしく、ただ笑みを浮かべていた。
今にも泣き出しそうな、悲しい笑顔だったけれど。
かつて村から彼女―漆黒の魔女と呼ばれていた―が消えた時、喜ぶ村人の中で唯一涙したのは魔女の母だった。
たった一人の娘を失った彼女は悪魔に願い乞うた。
『娘を救ってくれ』と。
悪魔はその願いを聞き入れ、彼女にそれを成すための時間と鍵を得る術を与えた。
姿を変え、娘のいる森の側の村で結婚し、娘を産み、その娘に器となる子供を産ませる。
悪魔の出した残酷な条件も娘のために成した。
そう、全ては娘の為。
僕は愛されてなんかいなかった。
結局、大事なのは魔女の魂を宿したこの体であって、“僕”という存在じゃなかった。
それでも確かに“僕”という心は存在し、救われた。
いくら感謝しても足りない。
だから祖母の願いなら叶えてみせよう。
たとえそれが、見返りを求めることも許されない、一歩通行の愛情だとしても――
7に続く
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